イノシトールに睡眠改善の効果はある?研究データから可能性を検証

公開日:2022/05/04
更新日:2022/05/10

    イノシトールとは?

    最近海外で、睡眠の改善に役立つイノシトールという成分が注目されています。

    イノシトールとはビタミンB様物質とされる甘みがある有機化合物の一種で、人体で自然に合成されています。

    豆類、穀類、ナッツ類、オレンジ、グレープフルーツなどの植物にも、肉類にも含まれていますので、私たちは日常的に摂取しています。

    アメリカの栄養学研究誌に掲載された論文によれば、1日1800kcalの食事から摂取できるイノシトールはおよそ225~1500mgです。[1]

    しかし海外では睡眠改善やその他の健康上の効果のため、イノシトールをサプリで意識的に摂取する人が増えています。

    日本でも5人に1人が睡眠の悩みを抱えており、厚生労働省のe-ヘルスネットで「不眠症は国民病」とされるほどですから[2]、イノシトールについてもっと知りたいところです。

    よく知られているように、不眠には精神的要因によるものと、身体的要因によるものがあります。

    そこでこの記事では、イノシトールに精神面と身体面でどのような効果があり、どのように睡眠を改善するのか、研究データを踏まえて考察してみたいと思います。

     

    イノシトールと睡眠改善の関係ー精神的要因

     1. 不安を和らげる

    何か不安を抱えていてなかなか寝つけない。

    そんな夜は誰にもあると思います。

    不安のために毎晩不眠に悩む人も多いそうです。

    海外のイノシトールサプリの商品レビューでは、不安に悩んでいた人がイノシトールを摂取したらよく眠れるようになった、というコメントが見られます。

    実際、イノシトールは体内のセロトニン生成を調節して、不安を和らげるという研究があります。

    1995年、イスラエルのソロカ・メディカルセンターはパニック障害患者21人にイノシトール12gを4週間投与しました。

    すると、イノシトールを摂取した患者はパニック障害や広場恐怖症の頻度も症状も大幅に改善し、副作用はほとんどありませんでした。[3]

    イスラエルのネゲヴ・ベン=グリオン大学での2001年の研究でも、20人の患者が18gのイノシトールを1か月間摂取したところ、パニック障害の週当たり発生数が4回減り、障害の症状も改善しました。[4]

    ネゲヴ・ベン=グリオン大学の同年の別の研究では、神経性の過食症に悩む患者12人に6週間イノシトール18gを投与しました。

    その結果、イノシトールを摂取した患者たちの症状は大幅に改善しました。[5]

    なお、2019年のマレーシア国民大学の研究では、他の薬と併用しない単剤療法でパニック障害の治療に効果がある成分の一つとされています。[6]

    不安を抱えていて眠れないとお悩みの方にはイノシトールの摂取がおすすめです。

     

    2. うつ病の症状を改善する可能性がある

    うつ病や、うつ病ではなくても気分が落ち込んで眠れない人も多いと思われます。

    脳内のイノシトールの不足がうつ病や睡眠障害に関係があるという研究があり、イノシトールがうつ病の症状改善に役立つという研究もあります。

    2017年、フィンランド国立健康福祉センターがうつ病と睡眠障害がある19人の少年の脳をMRSで調べたところ、前頭葉のミオイノシトール濃度が低くなっていることが分かり、研究グループは脳内のミオイノシトール量が睡眠時間や日中の眠気に関係していると結論しました。[7]

    うつ病患者の脳脊髄液中ではイノシトールの濃度が低いことはこれ以前から知られており、1990年代にはイノシトールがうつ病の症状改善に役立つという研究が発表されました。

    1993年のテルアビブ大学を中心としたイスラエルの研究では、11人のうつ病患者にイノシトール6gを30日間投与したところ、9人の症状が改善しました。[8]

    1995年のイスラエルの別の研究でも、4週間12gのイノシトールを摂取したうつ病患者13人のグループは、プラシーボ(偽薬)を摂取した15人よりも症状が大きく改善していました。[9]

    ただし、イノシトールのうつ病治療の効果に疑問を示す研究もあります。

    イノシトールは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という抗うつ薬と併用しても効果がない[10]、SSRIがきかないうつ病患者に投与しても効果がない、という研究もほぼ同時期に発表されています。[11]

    2022年の世界生物学的精神医学会などによる最新の診療ガイドラインでは、イノシトールは単極性うつ病の治療には効果が明らかでなく「推奨しない」とされています。[12]

    従って、うつ病に対するイノシトールの効果は患者によってばらつきがありそうです。

    うつ病治療のためにイノシトール服用を検討する人は、主治医と相談した方がよいと思われます。

    しかし、気分の落ち込みでよく眠れない方は、イノシトールのサプリを試してみる価値があると思われます。

     

    イノシトールと睡眠改善の関係ー身体的要因

    3. 血糖値コントロールで高血圧、肝臓病、糖尿病を緩和する

    高血糖や高血圧は不眠の原因となる糖尿病、心臓病、肝臓病などを引き起こします。

    イノシトールは、インスリン感受性を改善して血糖値コントロールと血圧を改善します。

    2009年のイタリアフェラーラ地方保健局の研究では、メタボリックシンドロームの閉経後の女性にイノシトールの一種ミオイノシトール2gを6か月間服用させたところ、最低血圧が11%、インスリン抵抗性を示すHOMA指数が75%改善しました。[13]

    2011年のイタリアメッシーナ大学の研究では、妊娠糖尿病の女性24人に毎日4gのミオイノシトールを服用させた結果、HOMA指数がプラシーボ(偽薬)を服用した45人よりも21%改善しました。[14]

    最近の研究では、イノシトールは非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、つまりお酒が原因ではない脂肪肝や肝臓病を改善して、糖尿病リスクを低下させる効果も期待されています。

    2015年、ミラノ大学などのイタリアの研究グループは、11件の研究をレビューして、イノシトールのNAFLDに対する効果を判定しました。

    10件の動物実験でも、1件の臨床試験でもイノシトールが中性脂肪の蓄積など脂肪肝の症状を改善することがわかり、研究グループはより多くの臨床試験を行って治療に役立てるべきと結論しています。[15]

    イノシトールを摂取すれば、高血糖や高血圧から生じる問題を緩和しつつ、睡眠の質も改善できる可能性があります。

     

    4.女性の多のう胞性卵巣症候群(PCOS)や不妊の改善

    ミオイノシトールは、女性の多のう胞性卵巣症候群(PCOS)や不妊の問題を改善する効果もあります。

    多のう胞性卵巣症候群(PCOS)とは、女性のホルモンバランスが崩れて排卵障害が起きる病気です。

    排卵障害があれば、もちろん妊娠が困難になります。

    PCOSは男性化(体内のテストステロン増加)、肥満などを伴うこともあります。

    2011年、イタリアフェラーラ地方保健局は42人のPCOS患者に対する臨床試験を行いました。

    ミオイノシトールを服用し続けたグループは、プラシーボ(偽薬)を服用し続けたグループに比べ、体内のテストステロン濃度、中性脂肪、血圧、インスリン抵抗性の全てにおいて大きく改善していました。

    また、ミオイノシトールを服用しなかった19人のうち排卵できるようになったのは4人だけでしたが、服用した23人のうち16人が排卵でき

    ミオイノシトールは女性の生理(無月経)を改善するので、PCOS治療だけでなく、不妊治療でも役立ちます。

    2007年のヴィータ・サルーテサンラファエル大学の臨床試験では、PCOSのために生理不順や生理がない既婚女性25人に1日2gのミオイノシトールを処方し続けました。

    6か月後、22人(88%)の女性に少なくとも一度生理が訪れ、18人(72%)の女性の排卵が正常になり、10人(40%)が妊娠することができました。[17]

    ミオイノシトールはPCOSではない女性の卵胞成熟、つまり体内で受精できる卵子を作るための不妊治療にも有効です。

    2012年、イタリアの生殖医療の研究グループが、50人の女性がゴナドトロピン療法という不妊治療を受ける前からミオイノシトールを服用させたところ、卵胞成熟に必要なゴナドトロピンの量が大幅に減り、卵子ができやすくなりました。[18]

    イノシトールは生理不順(無月経)や不妊に悩む女性の体調を改善し、ストレスを和らげることで、睡眠の質を改善することが期待できます。

     

    さらに進む研究

    ここまでは睡眠の精神的身体的要因に対するイノシトールの働きの研究でしたが、イノシトールと睡眠の直接的関係の研究も増えています。

    近年では睡眠のメカニズム解明のため、MRS(磁気共鳴スペクトロスコピー)を用いた検査で脳内のミオイノシトールの量を計測する研究が増えているようです。

    すでにご紹介したうつ病と睡眠障害に悩む少年の脳検査の他にも、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)患者や[19][20]、健康な高齢者の睡眠の質と脳内のイノシトール量の関連が研究されています。[21]

    また、逆にナルコレプシー(過眠症)の研究でも、脳内のミオイノシトールの増減との関連が注目されています。[22]

    さらに、ミオイノシトールの睡眠改善効果に関する臨床試験も始まっています。

    2020年、イランのバーボル医科大学では、妊娠14週間以上の女性60人にミオイノシトール粉末2gを10週間服用させました。

    すると、ミオイノシトールを服用したグループの睡眠の質のスコアも、睡眠についての自己評価も、睡眠時間も、服用しなかったグループより改善しました。[23]

     

    まとめ

    いかがでしたでしょうか?

    イノシトールは不眠症の精神的要因(不安、うつ病)と身体的要因(高血糖、高血圧、心臓病、糖尿病、肝臓病、女性の排卵障害や不妊)を緩和して睡眠の質を改善することが期待できます。

    さらに、イノシトールと睡眠メカニズムの研究が進み、ミオイノシトール摂取による睡眠改善の臨床試験も始まっています。

    この記事でご紹介した病気の自覚症状があるかたはもちろん、そうでなくとも不眠にお悩みの方にはミオイノシトールのサプリを試してみることをおすすめします。

    気になる副作用ですが、ヨーロッパの医学研究誌に掲載された論文では、12gのミオイノシトール接種で吐き気、おなら、下痢などの症状があった以外に副作用は見られなかったとのことです。[24]

    これは通常の食べすぎと同じ症状ですから、人体で自然に生成され、日常の食事でも摂取しているイノシトールをサプリで摂取しても問題はないでしょう。

    まずは2gくらいから始めて、ミオイノシトールの適量を見極めてはいかがでしょうか。

     

    ※記事の内容は、効能効果または安全性を保証するものではありません。サイトの情報を利用し判断及び行動する場合は、医師や薬剤師等のしかるべき資格を有する専門家にご相談し、ご自身の責任の上で行ってください。

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